2009年11月16日月曜日

ヴァリニール日報第11号

◆リーベック会談閉幕、尚海機構は警戒感あらわに

クラトニア共和国・キーファルン公国の2カ国によって先日から開催されていたリーベック会談が閉幕。石油・自動車の貿易活性化、そしてクラトニア共和国海軍へのキーファルン寄港許可に合意がなされた。

これに対し尚海条約機構構成各国は強い警戒感を表明。ネルヴィルの各国権益に大きな揺らぎが見えている。

政府は「ネルヴィル航路の安定を心から望む」とコメントしている。


◆官房長官「安全保障体制の再編を十分に検討すべき」

今日、定例記者会見の場でゴルベンコ官房長官は安全保障問題について次のようにコメントした。

「既にディルタニアにおける共産主義の脅威は去りつつあり、国際社会は新たな問題を孕みつつある。現在の安全保障体制では我が国の国益を最大限防衛する事は事実上不可能だ。我々はこの国の立ち位置を十分に考える必要があるのではないだろうか。既存の組織に参入するにせよ、新たな軸を作るにせよ、これは一昼夜で意見が纏まるものではない。見識者や世論の意見を重く見考える必要があるだろう。」


◆行方不明の女学生遺体で見つかる。今度は南部

先日14日、行方不明だった聖エレオノーラ女学院3年のジャンナ・アダモフカヤさん(19)が南部の地方都市グリューリトにて遺体で発見された。

アダモフカヤさんの遺体にはヴァイグゼで発見されたトルスタヤさんと同じように性的暴行の痕跡が見られるが、警察は同一犯による犯行の可能性を否定した。

アダモフカヤさんは先月12日に学校を早退した所から行方不明になり、かねてから捜索が続いていた。

警務庁はこの2件を集団による連続殺人としてRCI(共和国捜査局)に捜査協力を要請。現在400人体制で捜査が行われている。


2009年11月13日金曜日

怠惰の城

ヴァリニール北部の小さな廃教会。

介入戦争で幾度と無く砲爆撃に曝され、廃墟となったまま放置されたそこに、人の気配などある筈が無かった。

――そう、善良な市民の気配は。


無人の筈の礼拝堂に灯る小さなともし火。ゆらゆらと人の影が壁に浮き上がっては消えてゆく。

強い香の香りが辺りを包み込み、神前を淫らに染める。

「・・ねぇ、最近あの子を見かけないような気がしない?」

長髪の女が呟く。女神像を愛撫の如く撫ぜるその姿は堕落に誘う魔女のよう。

「あの子?」

「あの子よ、『彼女』の妹。」

少女が不満げに女の顔を見上げる。――私じゃ不満?――嫉妬を宿す青い瞳。

「そんな目をしないで」 耳を甘噛み。

跳ね上がる少女の躯。青い瞳から嫉妬は消え、歓楽に蕩ける。

「あの子だって我々の仲間でしょ。『自分の』じゃなくても心配はするわよ」

「姉を取り戻しに行ったわ。」

黒髪の女が答える。

「ふぅーん。国家権力に楯突くなんて大胆ねぇ」

「なんでも、欲求不満な人間を集めて随分派手にやってるみたいよ。新聞も一面大見出し。・・止めさせなくて大丈夫?」

「どうして?」

少女を蹂躙する手を止める。腕の中の少女は息も絶え絶えだ。

「警察はRCIに捜査協力を要請してるわ。地方警察レベルなら撒けるだろうけど・・もし組織の事が明るみに出たら少し厄介じゃない?」

あの子はそんなヘマをするような子じゃないわ、と女が答える。

「あの子は誰よりも狡猾で・・嫉妬深いわ。彼女を連れ戻す為ならどのような事も見逃さない。・・それに、今のあの子を止めるのは姫様だって難しいでしょう」

「それじゃ、このまま静観するの?」

「ええ。もう少しこの愛憎劇でも見させて貰いましょうよ。」

黒髪の女は少し不満そうにしたが、暫くの後暗闇に消えて行った。

小さく溜息をつく女。

「・・あの子なら、いくらでも可愛がってあげるんだけどなぁ・・・」

少女が文句を述べようと口を空けた瞬間、女は強く唇を奪った。

2009年11月11日水曜日

黒い夢

「・・被害者の氏名はジャンナ・アダモフカヤ。聖エレオノーラ女学院3年の19歳です。」

「彼女もヴァイグゼと同じケースか?」

「はい。3ヶ月前にご両親から捜索願が出されています。」

ロベルト・バルバショフ警部は天を仰いだ。まさか自分の街でこんな猟奇殺人が起きるとは・・・。共和国有数の『防犯都市』として表彰も受けていたこの街で。

「ご両親への連絡は。」

「先ほど。」

「・・忙しくなるぞ」

運転手が車を止めた屋敷の前には既に人だかりができていた。忌々しいマスコミの報道車が路肩を占拠している。

何があったのか周囲に尋ねる者、携帯電話で写真を撮る者、マスコミのカメラにピースサインを向ける者。・・何も知らない市民はまるでお祭り騒ぎだ。

「警部、こちらです」

玄関から刑事が呼ぶ。荘厳な趣のある家だ。社会主義政権時代にこのような大邸宅は許されなかったはずだが・・・。

「死因は?」

「薬物による急性中毒。鑑識によるとヴァイクゼで発見された物と合致したとの事。」

「外傷はあるか」

「死後に付けられたと見られるモノが多数。酷いもんです」

小さな寝室に入ると、警部は思わず目を覆った。

明かりの落とされた部屋の壁に、もたれ掛かる様にして斃れる若い少女。壁には彼女の血で何かの紋章が描かれている。一糸纏わぬ肌に幾筋も刻まれた傷に、警部は背筋が寒くなるのを感じた。

ヴァイクセと同じ人間の犯行では無い事は明らかだ。彼女は犯されながら殺されている。

「なにか手がかりは見つかったか」

刑事の一人が肩をすくめる。これだけの事をしておいて手がかり無しだと・・・?

「精液反応は?」

「・・わかりません」

鑑識官が遺体をよく見るよう促す。

――少女の遺体には、通常あるべき物が存在しなかった。

「強姦、殺人、死体損壊。捕まれば死刑は確実でしょうよ」

部下の一人が吐き捨てるように呟く。

(不可解な行方不明者の多発、連続して発生した猟奇殺人、壁に描かれた血の紋章、そして2つの遺体から検出された同じ薬物・・一体この国に何が起きている・・・?)

警部は凍りつきかけた思考の中で事件の理解に努め、そして今自分に導き出せる最善の判断を下した。

「RCIに捜査協力を要請するよう本部に連絡しろ。・・それと、この子をできるだけ綺麗にしてから両親に会わせてやれ」

「・・了解」

無力感が老いた刑事を襲う。

(私は、自分の街も自分で守れないのか・・・)

噛み切られた皺の深い口元を、警部の血が静かに流れていった。

2009年11月9日月曜日

ヴァリニール東方正教(仮)

ヴァリニール東方正教
ヴァリニール共和国で広く信仰される宗教。
ディルタニア各地に伝播、浸透していった正教の系譜に連なる宗派とされるが、その起源や教義の差異に「最異端」、「矛盾した存在」と評する学者も多い。
レニエフ大公国の保護下で発展を遂げたが、ヴァリニールがヤード帝国の勢力下に置かれると次第にその影響力は削がれていき、皇帝アレクセイによる大弾圧に曝される。
アレクセイがナリア大主教を公開処刑すると、信徒の怒りは頂点に達し、ディルタニア最大規模の宗教暴動が発生する(ディレグシアの復讐)。信徒軍は一時は北ヴァリニールを完全に制圧し、帝都にまで迫る勢いを見せたが、次第に内紛で自滅していった。
信徒軍を鎮圧したアレクセイはヴァリニール正教に縁のある者をすべて投獄、または処刑し、小さな礼拝堂に到るまで全ての宗教施設を破壊したが、エレーサ司教(氏名の記述無し)等が各地で少数の信徒を伴い地下に潜伏。以降介入戦争が勃発するまで地元民の支援の下細々と信仰を受け継いでいった。
帝政ヤードが崩壊した後も宗教弾圧は続き各地で信者狩りが行われたが、信徒の武装を以って信仰を死守する。
ヴァリニールで自由革命の機運が高まると自由派諸組織を支援。介入戦争では修道女を出立させているとの情報あり。

2009年11月7日土曜日

【設定】A&Wファイヤーアームズ

アヴィアント・アンド・ウォルセット・ファイヤーアームズ(A&W)

提供: フリー百科事典『ヴァレペディア(Varepedia)』


アヴィアント・アンド・ウォルセット・ファイヤーアームズ、通称A&Wはゲオルギー・アヴィアントと・オーガスタス・ウォルセットが設立したヴァリニール最大規模の銃器メーカー。

創業当初は旧式火器の近代化等の所謂「セカンドパーティー」的な業務を主に展開していたが、G.R.S(グロースニク・レイル・システム)の開発を皮切りに本格的な銃器開発・販売を開始した。

◆歴史

介入戦争が本格的に激化したV.C.22年、ヴァリニリア人のゲオルギー・アヴィアントが旧アムリヤスクの銃器技師を迎え「アヴィアント・ピースメーカー」を設立。AB-68等の旧式火器の改造と弾薬の供給を行い堅実に業績を伸ばす。

一転、介入戦争が終結すると需要は激減。企業存続の窮地に立たされるも、アヴィアントは当時国交が開設された合同王国から当時無名であったオーガスタス・ウォルセットを含む8人の開発技師を招聘。業務の伸張に乗り出す。

V.C.28年、ウォルセットを中心にG.R.Sを開発し、低迷を続けていた改造業務が好転。更にVAB-68Eがヴァリニール地上軍の制式採用突撃銃に採用され、一躍ヴァリニール銃器産業のトップに躍り出る。

V.C.31年、アヴィアントが経理を、ウォルセットが企画開発をそれぞれ受け持つA&W体制が完成。現在に至る。

◆製品

高い経済性、拡張性を特徴とし、予算の都合上用途別に火器を揃える事が難しい警察組織や、新興国の国防組織の高い人気を誇る。

最近ではバーラジア戦役で少数のAasr対物ライフルが北バーラジア武装勢力によって運用された事が確認されている等、安価故にヴァレフォール各地の紛争地帯でA&Wの火器を目にする事となるだろう。

メディア作品等への露出も多く、銃器の知識に乏しい女性や子供の知名度も高い。


・VAB-68E

共産圏を中心とした世界中の国軍で使用され、現在もおびただしい数が紛争地帯で使用されるAB-68を国内仕様に改良した突撃銃。

G.R.Sを本格的に搭載した初の突撃銃であり、システムの有用性を証明した点で社史に残る銃。

地上軍制式採用突撃銃としては徐々に更新が進んでいるが、現在もその堅牢性から海軍歩兵隊が第一線で使用している。

・Griffen

統合歩兵戦闘システムの名で売り込まれているA&Wの最新突撃銃。G.R.Sとモジュール方式の採用によりPDW、LMG、DMR等の多彩な形態に換装が可能。

旧式化の進むVAB-68Eの後継として採用され、機械化歩兵部隊を中心に更新が始まっているが、突撃銃としては非常に高価な為、そのペースは遅々として加速していないのが現状だ。

・Aasr

現在A&Wが製造販売を行っている唯一の対物狙撃ライフル。L1・L2はボルトアクション式、L3はセミオート式。対物狙撃銃としては小型・軽量だが1100mの有効射程と軽装甲車の正面装甲を支障なく貫通する破壊力を有する。精度の面では他国の物より一歩劣る。

長射程、高精度な合衆国SilverStorm製の物に国内需要はほぼ独占されるが、そのコストの低さから中小国からの人気は高い。


2009年11月5日木曜日

狂気の宴

リューシャ・ワシーリエビッチの許に一人の少女が現れたのは数ヶ月前であった。

恭しく話す金髪の少女――彼女――はまるで物語の世界から抜け出した乙女のよう。しかし、彼女の口から紡がれる言葉は狂気に溢れ、また欲情を誘う甘美な物であった。

――貴方が望むならば、誰にも悟られる事無く可憐な花々を摘み取って参りましょう。

初めは何の冗談かと思ったが、話しているうちにそうでない事を悟った。彼女は全てを知っていた。リューシャの決して明かす事の出来ない秘め事を。そしてそれがいよいよ生きがいになりつつある事を。


ヴァリニールでも指折りの資産家の妻であり、女性慈善団体の代表を務めていた彼女は公私共に成功しているように見えた。

しかし、私生活は悲惨なものだった。夫の浮気。子供も無く一人で夫の帰りを待つ孤独。

彼女は不満の捌け口を庭師に向ける。それからは堰を切るように彼女の肉欲は暴走を続け、幼い戦災孤児、女中、匿名で集めた異常性癖者、彼女に群がる「か弱き者」をすべて貪った。

しかし、彼女の心の渇きは癒されなかった。彼等の苦悶の声、表情は彼女の獣性を満たす事は無く、寧ろそれを高めていく。

――処女の血は人間の若さを保つ

彼女はついに人を殺めた。若い少女の手首に立てられるナイフ。皮を裂き肉を断つ感覚に身を震わせる。迸る鮮血に視界は赤く染まる。

音も無く斃れる少女。傷口を貪り渇きを潤す。明確な高揚感。彼女は以後鮮血を欲して止まなくなった。


指定された廃工場には彼女と数人の少女。目深にベールを被り表情までは伺い知る事はできないが、どれも整った顔立ちの美少女だ。

「・・それで?貴方は私の何が欲しいの?」

「僅かな手取り金さえあれば。」高揚も無く話す少女。真紅の目に光は無く、その透き通った肌は触れば崩れそうだ。リューシャは湧き上がる劣情を抑え問答を続ける。

「正直に仰いなさいな。はした金で請け負う事でもないでしょ?」

その言葉に彼女は身を震わせる。リューシャには推し量れない衝動が彼女の中を駆け巡っているのだろう。

彼女はこう言い放った。

「狂気の限りを。人々が貴方の影に絶望し、戦慄する程の惨劇を。」

彼女の合図で運び込まれる少女。薬物でも投与されたのか、目は既に焦点を失っている。

「貴方が悦ばれる事こそが私の本意でございますわ。どうぞ、ごゆるりと。」

煽情的な言葉が脳を焼く。彼女は何か呟いているようだが、もはや鮮血への渇望は五感を支配していた。

リューシャは獣性に意識を沈めていく中、彼女の目にはっきりと、黒い光が燈るのを見た。

2009年11月4日水曜日

ヴァリニール日報第10号

◆進む北部開発。ウィルドスカヤ計画順調に進渉

先日議会で承認がなされ、工事が開始されたウィルドスカヤ計画は順調に進んでいる。

本計画は経済的先進性に欠ける北西部ウィルドスカヤを一大計画都市群化するというもので、の計画で停滞が続く共和国経済を復活に繋げたいという狙いもある。

コンセプトは「職と住の融合、命を育む都市」。従来の近郊住居を一新し、都市居住にそのスタイルを回帰させる。また、1つの中枢都市に最低1つの大公園を設置し、またコミュニティーの場を各区画に配置するなど、居住性を重視した設計がなされている。

設計はレイリル人建築家のチャールズ・エセルバート氏。現在80万人規模の第1波移住者が各区画に居住を開始している。








◆世論調査、「現政権に不満」29%。経済停滞原因か

世論調査の結果、「現政権に満足している」が71%に後退。前回の調査と比較して9%「不満」が増加した。

世界食糧危機の後の記録的豪雪による食料不安、連日報じられる世界不況によるヴァリニール企業の苦戦など、ブラゴヴォリン政権は大きな向かい風に曝されている。



◆地上軍広報部、1個機甲師団の編成を公表。

先日、地上軍広報部は完全充足の1個機甲師団を新たに編成した事を発表した。

地上軍は世界食料危機により大幅な規模縮小を蒙ったが、「装備更新の大きな追い風」とする声も多かった。

事実、今回報じられた機甲師団は最新鋭のAvtoKeNR製GT-82/C主力戦車、VMC-5歩兵戦闘車を装備、今現在ヴァリニール地上軍に籍を置く部隊の中で最強の陸上機動戦力となった。

広報部は今後も4個機甲師団、14個歩兵師団の新規編成を予定しており、戦力の回復、強化が期待される。

GT-82/Cとはどのような戦車なのか、軍事専門家アブドガニ・パフ氏に解説していただいた。

「GT-82/CはDST-11等のディ連製戦車の流れを汲む大型戦車です。DST-11は介入戦争にも投入され多大な戦果を挙げましたが、現代速度戦への不適合や兵士への多大な負担が当時から懸念されて(中略)GT-82の射撃統制装置、成型弾積極防御システムの改良によりソフト面での進化を遂げたのがこのC型です。特に射撃統制装置の改良が著しく、これにより行進間射撃の命中率が大幅に向上されたと言われています。この鎧のような爆裂反応装甲が萌えポイントと認識されていますが、個人的にはA&WのAtg-26車載対空機銃の方が(都合により省略)」


GT-82/C主力戦車





◆行方不明の少女、死体で発見される。専門家は異常性を指摘

数ヶ月前に行方不明になり、捜索が続けられていたドミニーカ・トルスタヤさん(16)が昨晩東部の地方都市ヴァイグゼにて遺体で発見された。

トルスタヤさんの遺体には「常軌を逸した性的暴行」の痕跡が数多く見られる等(調査の結果、家庭内なでの暴行は無かったとの事)、専門家は異常性を指摘している。

現在トルスタヤさんの他に12名の少女が共和国全域で行方不明になっており、関連性の有無等も含め捜査が急がれる。