ヴァリニール北部の小さな廃教会。
介入戦争で幾度と無く砲爆撃に曝され、廃墟となったまま放置されたそこに、人の気配などある筈が無かった。
――そう、善良な市民の気配は。
無人の筈の礼拝堂に灯る小さなともし火。ゆらゆらと人の影が壁に浮き上がっては消えてゆく。
強い香の香りが辺りを包み込み、神前を淫らに染める。
「・・ねぇ、最近あの子を見かけないような気がしない?」
長髪の女が呟く。女神像を愛撫の如く撫ぜるその姿は堕落に誘う魔女のよう。
「あの子?」
「あの子よ、『彼女』の妹。」
少女が不満げに女の顔を見上げる。――私じゃ不満?――嫉妬を宿す青い瞳。
「そんな目をしないで」 耳を甘噛み。
跳ね上がる少女の躯。青い瞳から嫉妬は消え、歓楽に蕩ける。
「あの子だって我々の仲間でしょ。『自分の』じゃなくても心配はするわよ」
「姉を取り戻しに行ったわ。」
黒髪の女が答える。
「ふぅーん。国家権力に楯突くなんて大胆ねぇ」
「なんでも、欲求不満な人間を集めて随分派手にやってるみたいよ。新聞も一面大見出し。・・止めさせなくて大丈夫?」
「どうして?」
少女を蹂躙する手を止める。腕の中の少女は息も絶え絶えだ。
「警察はRCIに捜査協力を要請してるわ。地方警察レベルなら撒けるだろうけど・・もし組織の事が明るみに出たら少し厄介じゃない?」
あの子はそんなヘマをするような子じゃないわ、と女が答える。
「あの子は誰よりも狡猾で・・嫉妬深いわ。彼女を連れ戻す為ならどのような事も見逃さない。・・それに、今のあの子を止めるのは姫様だって難しいでしょう」
「それじゃ、このまま静観するの?」
「ええ。もう少しこの愛憎劇でも見させて貰いましょうよ。」
黒髪の女は少し不満そうにしたが、暫くの後暗闇に消えて行った。
小さく溜息をつく女。
「・・あの子なら、いくらでも可愛がってあげるんだけどなぁ・・・」
少女が文句を述べようと口を空けた瞬間、女は強く唇を奪った。
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